西バルカン:影響力を増すロシアと中国

セルビア、モンテネグロ、アルバニア、北マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、コソヴォから成る西バルカン諸国(WB6と総称されることもあります)は、将来のEU加盟が見込まれています。西バルカン諸国の貿易総額の約80パーセントは対EU貿易であり、また西バルカン諸国は、各国内の様々な法規制をEUの法規制と調和させる作業を進めています。EUによる対西バルカン支援は、質・量の両面において他のドナーと比べても突出した水準にあります。

 しかしながら、過去10年の間に、西バルカンではロシアや中国といった「部外者」の影響力が強まってきています。ロシアは、ウクライナへの侵攻によって国際的な信頼を大きく損ないながらも、特にエネルギー分野において、引き続き西バルカンに対し大きな影響力を維持しています。一方で、最近の習近平国家主席のセルビア訪問にも示されているように、中国はこの地域においてその存在感を確立させつつあり、セルビアのように、中国の掲げる「一帯一路」政策に深く関与する西バルカンの国も現れています。

 EUは、このような状況を黙って見てきたわけではありません。2015年には、西バルカンにおける連結性支援プロジェクトのために10億ユーロの資金を拠出しました。また2020年には、EU加盟に向けた西バルカンの経済と社会の改革を支援するための 西バルカン経済投資計画を発表しましたが、この計画には運輸、エネルギー、デジタルといった連結性に関連する多数の取り組みが含まれています。

 EUの重要なパートナーとして、日本もまた、西バルカンに対する支援を行ってきました。2018年の安倍晋三総理大臣(当時)のセルビア訪問の際には、EU加盟を目指す西バルカン諸国の経済社会改革の支援と西バルカン地域内の協力促進を目的とした、 西バルカン協力イニシアティブ を発表しています。

このような様々な過去の積み重ねの上に成立したのが、日・EU連結性パートナーシップです。世界においても欧州においても政治的・経済的不確実性が高まっており、また、未だに根強い民族対立が西バルカン地域には残る中で、この地域にとって、連結性の重要性、そして日本とEUのパートナーシップを強化することの重要性は、かつてないほどに大きなものとなってきています。

小山雅徳
西バルカンリサーチラボ合同会社代表。神戸大学国際協力研究科修了(国際学修士)。2007年~2010年および2015年~2019年、在セルビア日本大使館専門調査員としてセルビアおよびモンテネグロの政治・経済分野の情報収集と分析に従事。2022年に西バルカンリサーチラボを設立。現在、日・EU連結性パートナーシップの実施支援担当シニア・リージョナル・スペシャリストも務める。

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